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乃木希典は本当に無能だったのか?司馬遼太郎『坂の上の雲』の嘘を暴く」

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『坂の上の雲』は熱狂的なファンが多い作品で、司馬遼太郎のファンにとってはバイブルと
も言える小説です。この一作の販売部数は1400万部以上と言われており、この作品の名前を聞いたことのない人はほとんどいないのではないかと思われます。司馬遼太郎は国民作家と呼ばれており、その代表作のひとつである『坂の上の雲』は国民文学であるといっても過言ではありません。

司馬遼太郎の歴史観は、いわゆる司馬史観と呼ばれており、それに対する批判は一種のタブーのようなものになっていました。しかし、司馬遼太郎の数多くの作品の中でも、この『坂の上の雲』だけが他の作品と区別されて、あたかも正統な歴史書であるかのような特別な扱いを受けている現状に対しては、首をかしげてしまいます。

かつて、文藝春秋が、「20世紀に書かれた本の中で後世に残すべき作品」についてアンケー
トを行ったことがありましたが、この時、第一位に選ばれたのが『坂の上の雲』でした。その後、さらにまた「日本を見つめ直す最良の歴史書は何か」というアンケートを行ったところ、やはりまた『坂の上の雲』が第一位でした。
司馬遼太郎が大作家であって、手に汗握るような面白い小説を多数書き残した業績については、素晴らしいの一言ですが、この『坂の上の雲』については、一言も二言も口を挟みたくなる小説です。ある特定の人物を主人公にした物語ではなく、明治という時代に生きた人物群像の列伝であって、政治、外交、戦争といったテーマに触れながら、日本という国家のあり方そのものを論じた国家論を書いています。これがあたかも日本の歴史の正史であるかのような扱いを受けて、人々の心に定着してしまえばどういうことになるのか。
この『坂の上の雲』の誤りや史実との食い違いが後世に及ぼす深刻な影響については、無視で
きないものになるでしょう。

これに対して、多くの人々は、「司馬遼太郎の作品はあくまでも歴史に題材をとった小説であり、物語なのだから、文芸作品として扱い楽しめば別に構わないのではないか」と言うのでしょう。これが戦国時代の剣豪や武将、あるいは幕末の志士の生き様を描いた娯楽小説ならば、それで良いかもしれません。そのような娯楽小説が正確な歴史だなどとは、誰も思っていないからです。

ところが、近現代史がテーマである『坂の上の雲』は、この小説そのものが一つの社会現象になってしまっており、この『坂の上の雲』を多くの人達が「最高の歴史書」として称賛しているのが現状です。日本の近現代史を批判する時、この『坂の上の雲』を強力な根拠の一つとして扱った国もありました。新進気鋭の学者や大学教師が書いた文章を見ても、この『坂の上の雲』に影響されているのではないかと思ってしまうものが少なくありません。ここまでくれば、もはやこの『坂の上の雲』を単なる娯楽小説として済ませてしまうわけにはいかず、その真偽を徹底的に検証する必要があるのだと思われます。

司馬遼太郎が生涯かけて追求しようとしたのは、日本とは何か、日本人とは何かという、重く難解なテーマを彼独自の戦後的合理主義的歴史観によって解明しようと追い求めたものである、と言われています。そして彼自身がそのように合理主義的とみなす彼の歴史観の原点となり、出発点となったのが、大東亜戦争末期の彼自身の戦争体験でした。司馬遼太郎は学徒出陣で召集され、日本の敗色が濃厚になってきた昭和19年12月、ソ連と満州の国境近くに赴任しました。「物資の窮乏も激しく、ソ連に比べて日本の戦車があまりにも貧弱なのを見て、この時、日本に絶望した」と後に小説の中に書き残しています。その後、内地へ転戦し、焼け野原になった祖国が敗戦を迎える中で、彼の頭に取り憑いた疑問は、日本民族をこのような破滅に追い込んだ原因は何か、というものでした。

昭和になってからの日本が破滅の道を突き進んでいったのならば、当然、その背景にある国家の非合理性が問題とされなければならないのですが、それでは「なぜ昭和になってから、日本にこのような非合理性が生じたのか」。この問いを考えていくうちに、司馬遼太郎の心に燦然と輝き始
めたのが、昭和の前段階の明治という時代の栄光でした。昭和になってからの日本がまったく
だめだったのに、それに比べて日露戦争に勝った明治時代は何という栄光に満ちた時代だった
のだろう。明治の日本がロシアに勝ったのは、国全体に合理主義的精神が満ちあふれていて、
日本の国家体制が柔軟だったからだと。司馬遼太郎がこのような思いに取り憑かれて、『坂の
上の雲』を執筆したのは昭和の破滅の謎を解明するという彼のライフワークのテーマと好対照
をなして、そびえ立つアンチテーゼだったと思われます。

そして、このような思いは決して彼一人だけのものではなくて、彼と同時代に生きたすべて
の人々にとっても共有できるはずのものでした。戦前戦中に多感な青年期を過ごし、未曾有の
敗戦と国家の解体を味わった彼の同世代の人たちにとって、『坂の上の雲』が空前の感動をも
って迎えられたのも、こういった視点から見れば納得できるでしょう。

 

 

 

 

 

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